企画展「PARALLEL」を通して体験する〈ジークレープリント〉
2023.8.3 up text/池田敦 photo/東海林えいこ
ジークレープリントの可能性を感じる試み、企画グループ展「PARALLEL」。
2023年7月、ondoが注目する作家、影山紗和子さん・小林ランさん・TRAMPOLINEさんによる、並行世界をテーマにした企画グループ展「PARALLEL」を開催。
本展示のもうひとつの企画として、主にデジタルで制作する3名に、作品出力の可能性として、徳川印刷さんにご協力いただきジークレープリントを体験していただきました。
徳川印刷さんは、ondo galleryから徒歩数分、清澄白河にアトリエとオフィスを構えています。これまでondoで展示した作家さんたちも、ジークレープリントで多くお世話になっています。本企画では、紙のご提案から本番の作品制作までご協力いただきました。
企画にあたり、3名の作家さんには展示のメインとなるビジュアル作品1点を制作していただきました。作品データ完成後、入稿データと共に作品の意図や世界観、印刷や表現への要望をそれぞれ徳川印刷さんにお伝えした上で、徳川印刷さんより10種類の用紙の中からご提案をいただきます。完成イメージを共有しながら、実際に2種類の紙でプリントし最終的な用紙決定を行っていただきました。
今回、各作家さんと徳川印刷さんのやり取りを元に、展示作品が完成するまでの過程をご紹介いたします。
デジタル環境での制作が身近になり、多くの作家さんに支持され始めているジークレープリント。
ジークレープリントとはフランス語で「インクの吹き付け」を意味し、高性能インクジェットプリンタを駆使し、版画用紙やキャンバス生地にプリントする現在最先端の版画技法です。リトグラフやシルクスクリーン版画と違い、アナログの版を用いずに刷り上げるのが一つの特徴です。徳川印刷さんでは、紙幅150cmまで自由なサイズで印刷できる超大判インクジェットプリンタ・EPSON SC-P20050を使用。耐光性に優れたエプソンの10色顔料インクで鮮やかな美しいカラー出力と、4段階のグレーインクで階調豊かなモノクロ出力が可能です。
印刷過程でどうしても入り込んでしまう埃などにより、インク抜けが出てしまうこともあり、それらは全てスタッフの方たちが目視し、インクと筆を用いて手作業で仕上げを施しているそう。一見、アナログ作品との判別がむずかしい程の質感と高い品質を感じることにも納得です。
展示期間中、ギャラリーでは、今回参考にした10種類のジークレープリント見本も展示しています。
用紙選びによって、作品表現が想像以上に変化する面白さも見ていただけます。ぜひご覧ください。
たくさんの不思議な生き物が登場する作品世界。それらを彩る蛍光色の色彩再現を目指した 影山紗和子さん。
影山紗和子さんの作品では、数多くの不思議な生き物が作品に登場し、独自の作品世界を形作っています。
本展では、その世界観を表現するために、RGBデータで作成した鮮やかな色彩をできる限り再現したいという影山さんの要望を受け、しっとりした優しい風合いで、味わいのある線も繊細に表現することができる用紙「ウルトラスムース」、また、ウルトラスムースより白色度が高く、紙自体が凹凸感を持つ荒目の「アルシュ アクアレルラグ」の2種類の用紙のご提案いただきました。
提案を受け、影山さんは、繊細な線の表現を優先し、よりフラットで紙質が目立たない「ウルトラスムース」を選択。
紙質や光沢感は控えめでありつつも驚くほど発色も良く、蛍光に近い黄緑や、赤色系のニュアンスもご自身のモニターでの印象とほとんど差異もないという素晴らしい仕上がりとなりました。
現実とファンタジーがリンクする作品世界。浮遊感のある印刷表現を目指した 小林ランさん。
小林ランさんは、現実とファンタジーがリンクするようなお話が好きということで、今回のテーマ"パラレル"を受け、神獣や幻獣を想起して作品制作。
ジークレー印刷において普段は平滑な用紙「かきた」を選ばれている小林さんですが、今回の作品のテーマを受け、チャレンジングな2種類の紙をご提案いただきました。
どこか夢のなかにいるような距離感を意識してご提案いただいたのが、個性的なモコモコした紙質の「トーション」。データ上の粒状感のあるテクスチャーと輪郭部分の立体感が活かされる紙です。もう一つは躍動感のあるシーンを受けて、黒の締りが深く、輪郭線がはっきりする微光沢系も相性が良いのではと「フォトラグ バライタ」も合わせてご提案。全体的に温かみをもった紙白のため、ピンク系のグラデーションも鮮やかになりすぎず、やや深みのある味わいに仕上がります。
この提案を受けて、小林さんは、ディティールのある紙質はこれまで経験がなく、不思議なモチーフと浮遊感を感じさせる表現が合いそうとのことで、今回は「トーション」を選択。
展示作品では、特に空気や水の波紋のような動きが感じられ、独自の空気感が演出されていてとても素敵です。今後、用紙の選択肢としてぜひ使っていきたいとのことでした。
ジークレープリントによる華やかさのある色彩表現と、紙の質感との相乗効果を目指した TRAMPOLINEさん。
TRAMPOLINEさんは今回、"パラレル"をテーマに、すぐ側に存在している並行世界を表現されています。
以前、ジークレープリントで作品制作し、デジタルの画面上より、綺麗にかつ繊細に印刷できることにとても驚いたというTRAMPOLINEさん。普段リソグラフで印刷する際には、混色した色のひずみやかすれを味として制作されていますが、今回はジークレーならではの精細な印刷を活かすために、データ作成時から普段使用しない色やグラデーションを多く使用し、イラスト自体もなるべく細かい描写を意識されました。
華やかさのある色味が強調され、普段とはまた違った雰囲気の作品としていきたいというTRAMPOLINEさんの要望を受け、徳川印刷さんからは、細かい線の描写も美しく、色合いの濃淡も比較的はっきり仕上がる「エディションエッチングラグ」、そして、和紙特有のきめ細やかなテクスチャーとデータ上の細かい粒子の組み合わせによって控えめな立体感を持つ「アワガミ」という和紙を提案していただきました。
どちらの紙もそれぞれ違った質感で、見比べるのもとても楽しい時間だったそう。迷った上で、色がはっきり出る点を優先し「エディションエッチングラグ」を選択しました。黒のベタ部分も、墨のような色味でTRAMPOLINEさんもとても気に入ったとのことでした。一方、アワガミの紙質は、色のぼやけと彩度の落ち具合は個人的にとても好みだったとのことです。
展示作品は、リソグラフ作品の雰囲気とまた違った深みと、少し彩度高めの色が印象的です。
ondo gallery(東京・清澄白河)にて、2023.8.7(月)まで展示開催。
独自の世界感を持つ3名の作家による企画展を開催。「PARALLEL」をテーマに、それぞれが自由に想像を広げて作品表現しています。現実世界に並行して存在するかもしれない“異世界”や“どこかの惑星世界”。もうひとつの世界に思いを巡らせながら、ぜひお楽しみください。本展は、徳川印刷さんにご協力いただき、ジークレープリントをメインにした展示となります。
3名の想像力が広がる魅力的な作品と、表現を支えているジークレープリント。ぜひ合わせてご覧ください。
-展示開催-
影山紗和子・小林ラン・TRAMPOLINE
「PARALLEL」
7.28(金)-8.7(月) ※7.31(月), 8.1(火) 休み
12:00–19:00 ※最終日17:00まで
@ondo gallery 東京都江東区清澄2-6-12
→https://ondo-store.net/exhibition_pickup/25555/
徳川印刷
徳川印刷®は写真家・画家・イラストレーターのためのジークレープリントオンラインです。お客様のデータを尊重し、最新鋭のインクジェットプリンタで直接出力します。高品質のジークレー印刷を低価格で。東京・清澄白河から日本全国にお届けします。
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